民法上の「遺言」とは、一生懸命生涯をかけて築いてきた財産を、死後、家族、親族やお世話になった人、内縁の妻や認知していない子ども等、大切な人たちに遺し、大切な人たちの人生のために有効で合理的に活用してもらいたいと願って書かれた書面を意味します。
書面に遺す目的は、自分の死後に、自分の財産によって、自分の大切な人々の間で争いの種になってしまうことを防ぐことでもあります。民法で、遺言書の書き方は明確に決まっていて、それに反すると無効になってしまいます。確かに、せっかく大切な人々のために遺した遺言書が無効になってしまっては意味がありません。遺言書の正しい知識を身につけておきましょう。
遺言書には、「自筆遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、法律上の効力が異なります。
遺言者が全文自筆で遺言したい内容を記し、署名、日付、押印が必要です。作成した遺言書を封筒に入れて、封をし、遺言書に押印した印鑑で封印します。これで自筆遺言書のできあがりです。
自筆遺言の場合、無効になってしまう例をご紹介しましょう。
<不動産の場合>
家族の中では、誰にでも通じる言葉であっても、裁判所の検認の際に裁判官が確定できるように、登記簿通りの住所を番地まで明確に書きましょう。
<知的財産の場合>
知的財産権については、目録を作って全て誰が見てもわかる選別ができるように、一ずつ明確に記載が必要。
<預貯金>
銀行名、支店名、口座番号、名義人を明確にし、正確に記載しないといけません。←預貯金についてなので、不動産についての記載は不要
金額がわからなかったり、正確に名義が記されてなかったり、例え書き間違えでも存在しない口座番号や名義は無効
<日付>
日付がはっきりしない書き方は無効
遺言者が作成した遺言書に不備がないか公証人が確認し、公証人が遺言者の遺言書を清書します。証人2名の前で、公証人が読み上げ、遺言者が自身の遺言であることを確認して、遺言者が自身の遺言書であることを証明するために署名(住所、氏名)・押印(実印)します。
続いて、証人2名と公証人も署名(住所、氏名)・押印をし、公証人が作成日時を入れます。同様に公正証書は原本の他に2部作成されますので、遺言者・証人・公証人の署名(住所、氏名)・押印は元本の他2部にも各々行われます。公正証書の元本は公証人が公証役場に厳重に20年間保管されます。
遺言施行者に謄本として1部保管してもらいます。
そして、遺言者が残りの1部を自分で保管します。
公正証書を作成するには、遺言者は、財産目録や実印、印鑑証明、証人2名(勤務先・住民票・連絡先・免許証等身分証明をするもの各自用意)他、さまざまな書類が必要です。前もって、最低限必要なものを公証役場に問い合わせ、後は打ち合わせの当日に公証人の指示に従いましょう。不足書類は、後から郵送でも可能なケースも多いいです。不動産関係、預貯金等財産の対象が複雑な人は、弁護士会が行っている弁護士の法律相談に申し込み、弁護士に前もって相談してみるのもお勧めです。公証役場でスムーズに公正証書を作成することができます。
証人には、承認として認められない欠格事由のある人々がいます。法定相続人や法定相続人以外の遺言書に登場する人の配偶者です。それらの人でなくても、証人の役目を果たすために、未成年や知的障害者や文字が読めない人は、証人としての役目を果たすことができない人ですので、証人の欠格事由を持った人となります。
証人の欠格事由者ではなくても、証人として選ばない方が良い人もいます。証人の欠格事由をもつ人の、親族や関係者も避けた方が良いかもしれません。弁護士会に紹介してもらった弁護士や公証人に、証人を誰にした方が良いかも相談できます。また、公正証書を作るのは有料です。財産の総額(金銭財産以外の不動産や知的財産、遺言者が財産だと思う全てのものを含む)によって、公正証書作成の事務手数料は異なりますので、遺言書を作る際に、公証役場で確認しましょう。
※参考:「1.遺言 公証事務|日本公証人連合会」http://www.koshonin.gr.jp/business/b01
秘密証書遺言とは、公証人が「その遺言書が遺言者本人の遺言である」という遺言書の作成日とその存在を証明した遺言書をいいます。遺言者が、封印された遺言書の入った封筒を公証人に差し出し、自分が作成したものであることを公証人に宣言します。その場で、公証人が遺言者自身の作成と日付の証明をしてくれます。公正証書と同じように証人が2名に立ち会ってもらいます。遺言書の入った封書に、遺言者と証人2名、公証人の氏名・住所・押印、そして公証人が日付を入れます。
但し、公証人が遺言書の内容を確認したわけではないので、遺言内容に不備があったり、証人に遺言内容独自の欠格事由があったとしてもわからないデメリットがあります。一方で遺言内容を公証人にも証人にも秘密にできます。遺言書の内容を誰にも知られたくないという特別な理由が存在する場合は、大きなメリットになります。
公証人が遺言者本人の書いたこと、作成日付を証明しているので、遺言者の死後に、遺言書の存在を隠されたり、遺言書の日付を偽造されたりする心配が消えます。しかも、本人が作成したことを公証人が証明しているので、パソコンで作成した遺言書でも有効です。
一方、デメリットもあります。「遺言書の内容に対して、証人の欠格事由がない」という遺言者の言葉を信じるのみです。但し、裁判所の検認時に証人に欠格事由が生じた場合は、公証人の証明は無効になりますので、そのような場合に備えて、自筆遺言としても通用するように作成しておくのがお勧めです。
「自筆遺言」「秘密証書遺言」の場合、一般的に裁判所の検認が必要となります。裁判所の検認とは、「遺言者本人が間違いなく作成したものであり、偽造の疑いもなく、財産も明確に記され、この遺言書は有効である」と裁判所が判断する事です。
裁判所は、本当に遺言者が生前書いたものかどうか疑いがある場合は、筆跡鑑定等が行われたり、財産の細かい確認をしたりすることもあります。裁判官が法的に有効な遺言書と確定できない場合は、その遺言書は無効とされてしまいます。
財産所有者が死亡した場合、相続問題が発生します。
法律は、法定相続人の人間関係や生活環境を一切考慮せずに、相続順位が同じなら、均等に相続されます。
揉めやすいのは、二世帯住宅で、家以外に金銭的な財産が少ない場合です。相続順位1位の子どもが2人以上いて、そのうちの1人が親を介護していた場合、親を一切面倒みていない子と、親を最後まで介護した子が、平等に相続するために、家を売らなければならないケースもあります。このような場合、遺言書がないと最後まで介護してくれた配偶者と子どもが家を失ってしまうことになります。
子どものいない夫婦とおひとり様のケースは以下の通りです。
法定相続人は、夫の両親と兄弟姉妹がいる場合、夫の両親が優先され、兄弟姉妹には相続の権利はありません。妻の相続分は3分の2です。残りが両親の相続分です。また、両親がいなくて、兄弟姉妹が法定相続人になった場合は、妻の相続分は4分の3です。残りの財産を兄弟姉妹で均等に相続します。この場合も、預貯金が少なく、家しか財産がない場合は、家を売ってお金を作るしかないので、妻は夫婦で一緒に築いた財産でも有るのに、夫名義の家と土地を失うことになります。
親がいれば、親が全ての財産を相続します。親がいなければ、兄弟姉妹、兄弟姉妹もいなければ、甥や姪、それもいなければ、従兄弟達、それもいなければ、財産は国(国庫)に行ってしまいます。若いおひとり様の場合、一緒に暮らしていた恋人や、友人、婚約者がいたとしても、相続権はありません。
広辞苑によると、「【遺言】:死後のために物事を言い遺すこと。また、その言葉」と書かれています。「物事を言い遺す」ということは財産だけではないはずです。生きてきた証として感謝の気持ちを遺したい想いが遺言なのかもしれません。その想いを形としたものが財産を分けることになるでしょう。大切な人が、自分の死後も幸せに暮らすためにも遺言書の作成を考えてみてはいかがでしょうか。