2018.01.29
家を買うのは20代後半から40代くらいまで――。マイホームの購入に対してそのようなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。実際、結婚や出産で新しく家族が増えるタイミングでマイホームを購入するケースは多く、高い買い物なので定年まで時間がある若い世代のほうが住宅ローンは組みやすいということもあります。しかし60歳を過ぎてから住み替えをしたり、新たな住まいを購入する人も少なくありません。
60代から住まいを購入する理由は、「子育てを終えて、これまでの子ども仕様の住宅は必要なくなり、使い勝手のいい家に移りたい」「現役時代は転勤が多く社宅暮らしだったが、定年を迎えて終の棲家を探している」「介護が必要になった時のためにバリアフリーの住まいを考えている」「体力が落ちているので利便性のいい駅の近くのマンションに移りたい」などさまざまで、若い世代の購入理由にはない「シニアならではの事情」が強く影響しています。年齢的に住宅ローンは組みにくくなりますが、若い世代と違ってある程度まとまった貯蓄がすでにできている世帯も多いもの。自己資金がある場合は住宅ローンを組まずに、もしくは少額の住宅ローンで住宅を購入することができ、住宅ローンの金利を大幅に抑えることができます。後半生を心地良く暮らせる家を手に入れられるだけでなく、子どもたちに資産を残せることも、大きなメリットと言えるでしょう。
60代以上の住替えではどのような点を重視すればいいのでしょうか。まず、これからの人生をどう生きたいかを考えてみましょう。具体的には、どこで誰とどんな生活を送りたいのか、ということです。田舎で夫婦一緒に畑作りをしたい、都市部でそれぞれの趣味を楽しみたいなど、いろいろな希望があるはずです。
都市部であれば、交通網が発達していますし、買い物も便利で、病院なども近くにあることが多いです。駅の近くならさらに便利に暮らすことができます。郊外に比べると地価が高いので、広い面積の住まいは望めないかもしれませんが、子どもが巣立って夫婦二人暮らしという世帯にはむしろ好都合ということもあるでしょう。
一方、定年を機会に都会の喧騒を離れて緑豊かなところで田舎暮らしをしたい、夫婦で野菜作りをしてみたいといった理由で、郊外に住み替える人もいます。地価が安く、広めの居住空間が得られるというメリットがありますが、主な移動手段が車という場所が多いので、車が運転できなくなった時にどうするかも考える必要があります。
近年は、老後の住み替え先にマンションを選ぶ人が増えています。マンションは「階段や段差が少なく、バリアフリー化されている」「オートロックが設置されているなどセキュリティがしっかりしている」「共有部分の清掃やメンテナンスを管理会社に委託しているため、自ら管理する必要がない」といった特徴を備えているものが多く、高齢者にとって住みやすいものになっています。一方、一戸建ては「上下階や隣室の騒音を気にしなくて済む」「管理費や修繕積立金、駐車場代といった毎月のランニングコストがかからない」「庭造りを楽しめる」といったメリットがあります。
誰も使ったことのない新築物件は、気持ちのいいもの。キッチンや給湯など最新の設備が設置され、使いやすくなっています。ただし、中古物件に比べると高額で、購入時に未完成というケースも多いため、本当に満足のいく物件なのか、のちのち不具合が出てくることはないのか、判断が難しいこともあります。
中古物件は値段が安く、購入時に、設備や間取りを確認することができます。中古物件の方が物件数は多いため、条件に合った物件を探しやすいというメリットもあります。値段が安い分、リフォームに予算を回すこともできるので、あえて中古物件を購入して自分の生活スタイルに合わせて変えるというのも一手でしょう。
預金や保険、株などの資産、年金など定期的な収入を把握することも大切です。60代以降は現役時代と違って大きく収入を増やすことは望めないため、現状を把握することで、「住み替えにどの程度のお金をかけられるのか」が見えてきます。
「資産に余裕がないので、満足な住み替えはできない」と考えてしまいがちですが、これまで住んでいた家を売却したり賃貸したりして、予算を増やすことが可能です。
60代以降になると、今は元気でも突然体調を崩すことも少なくありません。そんな時に頼りになるのは、やはり子どもの存在でしょう。二世帯住宅を建てるという選択肢もあり、病気や倒れたときは安心というメリットはありますが、生活リズムのずれなどでストレスが溜まり、トラブルが起きやすくなります。二世帯住宅でも完全分離型にするなど、互いのプライバシーを守る工夫が必要です。
一方、同居ではなく近くに住む「近居」であれば、適度な距離感が保たれるので、ふだんの生活で干渉されることはなく、困った時やイベントなどのときは連絡や行き来がしやすいので、親世帯にも子世帯にもメリットがあります。最近では、同じマンションの別の居室に住むというパターンも増えています。
60代以降の住み替えでは、愛着のある住まいに別れを告げ、たくさんの荷物を整理し、煩雑な契約や手続きをこなすなど、なにかとエネルギーを使います。エネルギーだけでなくお金もかかるので、「気に入らなかったら次」というわけにはなかなかいきません。だからこそ一生涯安心して住み続けることができる物件を探すことが大切なのです。