納豆、みそ、しょうゆ、キムチ、チーズ、ヨーグルト……日本の食卓に並ぶ発酵食品は様々ありますが、いずれも栄養価が高く成人病予防などにも一役買います。それらを意識して食べることは、暑い季節を健やかに乗り切ることにもつながります。今回はそんなお話です。
ビタミン豊富で夏バテ防止の味方に
「発酵」とは、麹菌、酵母菌、乳酸菌、納豆菌、酢酸菌などの微生物の働きで物質を分解すること。発酵によって出来た食品は、元の食材より人体に有益な成分が増え、例えば納豆は茹でただけの大豆よりビタミンB2が約7倍、ビタミンKは実に80倍以上になると言われます。代謝エネルギーに関与するビタミンB群を発酵食品で多く摂ることは、夏バテ防止の栄養補給にもなります。また、大豆の発酵食品は、血圧やコレステロールの低下など生活習慣病の予防効果もあります。さらに、ヨーグルトなどで乳酸菌を摂取すると腸内の善玉菌の働きを助け、偏った食生活で乱れた腸内環境を整えて、免疫力を高めてくれることも期待できます。乳酸菌は摂取した後、胃酸によって死滅してしまうことがほとんどと言われますが、それでも善玉菌のエサになるなど役に立っているのです。
それぞれの発酵食品に、それぞれの魅力あり
代表的な発酵食品の特長を見てみましょう。まずは納豆。大豆を納豆菌で発酵させたもので、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、食物繊維、必須アミノ酸などをバランスよく含んでいます。しかも、しょうゆなど他の発酵食品といっしょに摂ることがよくあり、双方の効果を活かせます。そのしょうゆは、麹に食塩水を加えたもろみを発酵熟成させて搾ったもので、「濃口」「薄口」「たまり」「再仕込み」「白」とバラエティ豊か。ただし、塩分を多く含むので摂り過ぎには注意です。それらと同じく日本人にはなじみの深いみそ。地域によって様々なものがあり、お取り寄せなどで選ぶ楽しみもあります。蒸したり煮たりした大豆に麹と食塩を混ぜて発酵熟成させた食品ですが、生活習慣病の予防などで世界的にも注目されています。また、調味料として重宝される酢は、米から醸造した酒に、酢酸菌を加えて発酵させて造られたもの。高血圧予防、血中脂質の減少、疲労回復効果などがある酢酸やクエン酸を含み、酢に食品を漬けることでその保存性も高めてくれます。すっかり日本人の食に溶け込んだキムチも、野菜や海産物、ごま油など多彩な素材が発酵した食品です。免疫力の向上、疲労回復、便秘解消、さらに美肌やダイエットなどの効果があります。余談ですが、納豆やみそと同じ大豆から作られる豆腐は、名前に「腐」と入っているのに発酵食品ではありません。もちろん栄養については申し分ないので、みそ汁の具として、あるいは夏はしょうゆをかけて冷ややっこで楽しみたいものです。
洋食派の人はチーズやヨーグルトを
和食系の発酵食品を紹介してきましたが、洋食派の方々にはチーズやヨーグルトがオススメです。チーズには牛乳の6倍以上のカルシウムが含まれ、必須アミノ酸であるメチオニンは肝臓の働きを助けてくれます。ヨーグルトは乳酸菌の発酵乳で、先に説明した通り腸の働きをよくすることで有名ですが、栄養価は牛乳とほぼ変わらないので「牛乳が苦手」という方には嬉しい食品です。
「毎日」「組み合わせ」「生」が上手な摂り方
発酵食品を上手に摂るためのコツは3つあります。まずは毎日食べることで、つねに菌が体の中で活動を続けるようにします。また、納豆とキムチを合わせて食べるなど、複数の発酵食品を組み合わせれば様々な菌を摂り入れることができます。そして、できるだけ生で食べること。加熱すると菌を生きたまま摂ることが難しくなるからです。なお、いくら体に良いと言っても、しょうゆの話で触れたように塩分の過剰な摂り過ぎなどにつながるので食べ過ぎは厳禁です。
あの発酵食品は偶然の産物?
発酵食品がどのようにして生まれたかは諸説がありますが、偶然の産物と言われるものも少なくありません。例えば、納豆は弥生時代、竪穴式住居の床に敷かれていた稲ワラに納豆菌が棲みついており、稲ワラの上にこぼれた大豆の煮豆が発酵して出来たという説。チーズについては、アラピアの旅商人が乾燥した羊の胃袋で作った水筒にヤギの乳を入れて砂漠を移動しているうちに、発酵して白い固まりになったという説。真偽は定かではありませんが、どちらも紀元前のエピソードなので、はるか昔の人々の知恵が現代まで伝わったもののようです。なお、最後に注意したいポイントを一つ。「発酵したものは一度腐れているのだから賞味期限が過ぎていても大丈夫」と主張する人もいますが、それは間違いです。「腐敗」も発酵と同じく微生物によるものですが、人体に害を与える場合があります。発酵食品も賞味期限はくれぐれもお守りください。