暖かい部屋から寒い脱衣所やトイレに移動すると、血圧が急激に変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす危険性があります。体に悪影響を及ぼすその「ヒートショック」と呼ばれる現象の、メカニズムや予防策について解説したいと思います。
冬場は家の中の移動時、温度差に要注意
ご存じない方も多いと思いますが、入浴中に溺死などで死亡する人の数は交通事故による死亡者数を大幅に上回っているという実態があります。その主な原因の一つがヒートショックと言われています。特に12月~1月は、入浴中に心肺機能停止となる人が8月の実に10倍以上に及ぶ年もあるため、冬場は十分な注意が必要です。ヒートショックが起こる背景には、住まいの中の温度が一定でない状況があります。寒い季節はその差が大きくなることは容易に想像できます。例えば入浴しようと暖房の効いたリビングから冷えきった廊下を通り、寒い脱衣所で衣服を脱いで浴室へ。その後、ぽかぽかの湯船につかります。その間に血圧が激しく上がったり下がったりするので、体に良いわけはありません。就寝後、トイレに起きる時も同様です。布団の中から抜け出すと、すでに暖房を停めた部屋の空気が体を冷やし、さらに廊下、そしてトイレと寒い場所へ移動することになるからです。
ヒートショックが起こりやすい人とは?
もともと高血圧や糖尿病、動脈硬化などの疾病を抱える人、呼吸器官に問題のある人、不整脈のある人、肥満気味の人はヒートショックの危険性が高いと言えます。年齢が65歳以上の場合は、健康であっても気をつけましょう。生活習慣も関係します。よく晩酌をする人は飲酒後の入浴を避けるべきです。また、熱いお風呂が好きな場合、前述のように湯船につかる前後で血圧が大きく変動してしまうので注意しましょう。
ちょっとした心掛けがヒートショック対策に
多くの住宅では、リビングや居室は日当たりの良い南側にあり、浴室やトイレは寒い北側にあります。当然ながら廊下も日が当たらないケースがほとんどでしょう。そのためそれらのスペースはどうしても冷え込んでしまいますが、長い時間過ごす場所でないため暖房を入れるという意識が薄くなりがちです。あらゆるスペースに暖房器具を設置して家の中の温度差を解消するのが最善策とも言えますが、相当な費用がかかってしまいます。そこで、心掛け一つでヒートショックの予防につながるいくつかの方法をご紹介しましょう。まずは移動の際、暖かな格好をすること。上着を羽織ったり、靴下を履いたりすることで体から熱が逃げるのを防げます。次に、入浴前。浴室暖房乾燥機が設置されているなら20~30分前から作動させておけば良いですが、ない場合はお風呂のフタをしばらく開けたままにするか、シャワーで高い場所から浴槽をめがけてお湯をかけておくと浴室全体が暖まります。さらに、お湯は40度程度の熱すぎない温度にし、洗い場と湯船の中の温度差をできるだけ小さくします。そして、湯船につかる前に手や足にかけ湯をして体を湯の温度に慣れさせます。脱衣所には安価なもので良いので電気ストーブを置き、入浴前に暖めておくと良いでしょう。また、汗をかいて体内から水分が減ると血圧が上がるため、入浴前後に水を飲む習慣とつけることをオススメします。入浴する時間帯も、できれば夜遅くより気温が高い夕方に。脱衣所や浴室内が冷えきる前であれば、ヒートショックのリスクを抑えることができるでしょう。トイレも暖房付きの便座が理想的ではありますが、せめてカバーはしっかりつけ、肌から便座を伝って体温が逃げてしまうのを抑えるようにしましょう。
屋外へ熱が逃げやすい窓などの断熱を徹底
室内の熱は主に窓や外壁、床から屋外に逃げていくと言われています。壁や床に断熱材を採り入れるのは大掛かりなリフォームになってしまいますが、窓については断熱シート・フィルムを貼れば熱の放出を軽減することが期待できます。それよりも費用は掛かりますが、断熱性が高い窓ガラスに交換したり、窓の内側にもう一つ窓を取り付けて二重にしたりするプチリフォームなら、より高い断熱効果が得られるでしょう。もちろん、すき間風が吹き込んでいるような古い窓の場合、まずはすき間テープなどでふさぐ必要があります。浴室や脱衣所、トイレの窓の状態をチェックして、寒さが本格的になる前に対処しましょう。それでもヒートショックが起こってしまうことはあるかと思います。万一の場合に家族でどのように対応するかを考えておくことが、全員の意識を高めることにもつながります。入浴前には必ず誰かに一言かけるようにすることも、大事に至るのを防ぐ手立てになります。家族が遠く離れて暮らしている場合は、入浴の前後にメールを送り合う習慣をつくると良いでしょう。ヒートショック対策も大切ですが、それによって家族のコミュニケーションが深まれば、寒い季節をよりホットに過ごせるかもしれません。